それから15分ほど経った頃、あたしと翼の名前が呼ばれた。


「椿さん、ミライさん、3番テーブルお願いします」


「は~い」


元気に返事する翼とは対照的に、あたしは無言で立ち上がる。


いよいよお客さんにつくんだ。


「大丈夫、あたしと一緒だし、フォローするから!」


そう言ってガッツポーズを作って見せる翼に、あたしは小さく頷いた。


この15分で、翼は一通りの流れを、丁寧に教えてくれていた。


まずは席に着いて、挨拶をする。


「はじめまして、ミライです」


何度も何度も心の中で繰り返した。


その席に着く事は予想していた翼は、お酒はあたしが作ると言ってくれていた。


あたしのやるべき事は、隣に座った客の、グラスについた水滴をおしぼりで拭う事、煙草に火を点ける事。


それだけでいいと翼は言ってくれた。


ゆっくりと席に向かう翼の後を追い、ついにその瞬間が来た。


「はじめまして、椿で~す!」


ハイテンションな翼に圧倒されながらも、何とかあたしも無事に挨拶を済まし、お客さんの隣に座る。


二人組のスーツ姿の男達は、年齢は30歳くらいだろうか。


翼の隣に座る男は、がっしりとした短髪が良く似合う、ラガーマンのような人。


あたしの隣に座る男は、眼鏡をかけていて、優しそうな感じだった。