oneself 後編

翼は言ってみただけだと言った。


それでも、もしもを考えると不安になってきた。


このお店に誘ってくれたのも翼。


お店で常に一緒にいるのも翼。


始発までの時間を一緒に過ごしてくれるのも翼。


翼がいなければ…


でもどこの店に行ったって、さほど状態は変わらない気がする。


むしろ小さな店に行けば、時給は下がるかも知れない。


それは翼も分かっているだろう。


あたしは少しだけ考えたが、それ以上何も言わなかった。


結局、その日は今までで一番暇だと感じるほどで、あたしと翼は、11時過ぎにお店をあがった。


「今日は暇やったし、もう終わった」


哲平にメールを送ると、駅に向かって歩く。


その時、あたしの携帯が鳴った。


メール受信音ではなく、着信音が鞄の中で響いている。


あたしは誰だろうと不思議に思いながら、携帯を手に取った。


着信 哲平


「もしもし」


携帯を耳にあてると、後ろはひどく静まり返っている。


まだ一部の営業中のはずだ。


仕事中じゃないんだろうか。


「あんな…」


哲平は軽く咳払いをすると、そこで少しだけ間を置いた。