oneself 後編

結局ミナミまでの数分間、あたしは彼女と過ごした。


…とは言っても、一方的に彼女が喋っているのを、あたしはただ聞いていただけで。


元彼は浮気ばっかりだっただの、今彼はすごく優しいだのと話す彼女の相手は、どうやらホストのようだった。


何となく、彼女に前田さんと同じようなものを感じた。


「今日も頑張って稼がなきゃね」


ミナミに到着し、肩を並べて歩いていると、ふいに彼女は言った。


何か答えようとして、彼女の方を向いたのと、同時くらいだった。


「てか、稼がないとやばいんだ」


あたしの方を見向きもせずに、真っ直ぐと前を見つめながら…


彼女はひとり言のように、そう呟いた。


あたしは何も言えず、前に視線を戻した。


間もなくして、あたし達は「じゃあね」と言い合って別れた。


彼女には彼女なりの、何か理由があるのかも知れない。


客の場内指名と引き換えに、自分の体を売る理由が。


とてもじゃないけれど、毎日のようにお店に通っては、高額のお金を使っている彼女が、ホストの彼氏と付き合っているとは思えなかった。


きっと、彼女は色をかけられて、騙されてるんだ。


詳しくは知らないけれど、そんな気がした。


何だか、ひどく切なかった。