男性スタッフに連れられて、そのお客さんの元へ向かったのは、さきほどロッカールームで一緒になった女の子達2名だった。


自分でなくて良かったと、胸を撫で下ろす。


でももし次、二人組のお客さんが来たら…


心配そうに入口付近を眺めるあたしに、翼が「未来ちゃん」と呼びかけた。


「あ、ここではミライちゃんだ…」


しまったという顔で口元を押さえる翼に、またしても吹き出した。


「お客さんの前では、あたしも椿だからね」


そうだ。


いつもの調子で、翼と呼んではいけないんだ。


「うん、分かった」


仕事さえ出来るか不安なのに、そんなところまで頭が回るだろうか。


思わず下を向くあたしに、翼は「そうだ!」と叫び、思い出したようにテーブルの上にあるポーチを探った。


「これあげる。あたしと色違い」


そう言って差し出されたのは、ピンクにキラキラのストーンが入った、かわいいライターだった。


「あたしのはこれ」


翼のものは、全く同じデザインの水色。


「昨日の帰りに買ったんだ。お揃いだよ」


あたしはそれを、ギューっと握り締めた。


「初めての時は、誰だって緊張するよ。こんなあたしでさえしたんだから」


そう言って、翼は肩をすくめて笑って見せた。


「うん、ありがとう…」


頑張らなきゃ…


翼の為にも…