いつもの居酒屋で腹ごしらえを済ますと、哲平のお店が入っているビルへと向かう。


そのビルの下で、哲平の携帯を鳴らした。


「接客中でも、携帯は繋がるはずだよ」と、言っていた翼。


こんな時間に、電話をした事なんてなくて。


忙しい状態なら、あたしの電話は取らないかも知れない。


鳴り続ける呼び出し音に、もう切ろうとした時だった。


「もしもし」


少し慌てた様子の、哲平の声。


きっと、何事だろうと思っているはずだ。


「いきなりごめんな、あんな…」


あたしは、今もうビルの下にいて、翼と飲みに来た事を話す。


「はっ?」


不機嫌そうな声でそう言った哲平は、そのまま黙り込んだ。


「サプライズだよ」


翼にそう言われて、驚いてくれるかな、なんて期待していたあたし。


迷惑だったかも知れない。


今更そんな事に気付いた。


流れる沈黙に、不安にならずにはいられない。


「そこで待ってて」


数秒間の沈黙の後、哲平はそう言って電話を一方的に切った。