「じゃあ、私やります」

声のした方を見ると、美樹が笑顔で手を挙げていた。

「美樹! でも、美樹玉入れが良いって…」

「いいのいいの! 真子とやるならいいかなーって思ったの」

にこっ、と笑う美樹の、優しさに感動した。

美樹はとても良い子だ。

私なんかにはもったいないくらいの、唯一の親友。

「…わかった。リレー、やるよ」

「本当か!? めっちゃ助かった! ありがとな」

そう言った本田の笑顔はとても無邪気で、「神原と小林って書いといてー」と書記の子に頼む本田の姿は、少し、先生に似ている気がした。



「美樹、50m何秒だっけ?」

種目も全員無事に決まり、早めの昼休みとなった。

私と美樹は、いつも教室で弁当を食べながら話している。

屋上も行けなくはないが、めんどくさいのだ。

階段を上がるのが。

「8秒前半。真子よりは断然遅いけど、これでも中学の時はリレーでアンカーだったんだから!」

「うっそ初耳!」

美樹は勉強も運動も出来る子だとは知っていたが、驚きだった。

何でも出来る人は本当に何でもそつなくこなす。

勉強も運動も全部が中途半端な私にとって、とても羨ましい事だった。


「そうだ真子。リレーの担当、矢島先生だよ」

「え゛」

カシャンッ

急に吐かれた言葉に、私は持っていた箸を床に落としてしまった。

慌てて拾っていると、美樹がくすくすと笑っている声が聞こえた。

「そんな動揺するなんて、やっぱり私の予想、当たってたー」

「え、え…?」

未だに訳が分からない。

予想? 何のことだろう。

すると美樹は私の耳元で言った。

「矢島先生の事…。好きなんでしょ?」

「――ッ! な、何でそんな事…!」

「やっぱり! 真子はほんっとわかりやすいなー」

再びくすくすと笑う美樹を私は呆然と見つめていた。