5月中旬――…。

西原高校は、6月下旬に体育祭がある。

他の学校は9月にあるからかぶらないように、らしい。

別にかぶってもいい気がするけど。

「それでは、種目決めをしたいと思います。必ず、1人1種目は出るように」

学級委員の男女2人が仕切っているのを私はぼーっと見ていた。

二人の後ろにある黒板には各種目の名前が並べられている。


…私は走るの苦手だから、玉入れあたりにしとこうかな。

美樹も玉入れがいいって言ってたし。

そうと決まれば早速名前を書きに行こうと席を立つ。


チョークを持って名前を書こうとした所で、学級委員の男子の方に手を掴まれた。

「…えーっと…」

「千秋だよ。本田千秋。まさか覚えてられてないなんて思わなかった」

「いや、そうじゃなくてね、本田。この手は一体…?」

そう言うと本田は「ああ、そうだ。ごめんごめん」と言って手を離した。


「真子ちゃんは足早いよね? ってことでリレーお願いしたいんだけど…」

「えっ、ちょ、無理無理無理無理! 私遅いって!」

必死で抗議するが全く聞いてくれない。

寧ろクラスの人達みんな「そーだそーだ」と言って私に反抗の隙を与えない。

畜生あいつら、覚えてろよ。

しかも私の事“真子ちゃん”だなんて馴れ馴れしい奴…。


「だってさー…。この記録、見る限りだとこのクラスでぶっちぎりの1位だよ? 7秒37ってさ…。遅くないよね。むしろ速いよね」

言い返せなかった。

実際、クラスで一番のタイムだったからだ。

…全く知らなかった。


「…リレーは嫌。何か別の種目なら、いい」

これだけは絶対譲らない。

リレーとか、もう二度とあんな思いなんてしたくない。

「うーん…。でも、リレーやってくれる人いないんだよ…各クラス二人ずつだから、1人じゃないし…」

ぐぬぬ…手強い奴め…。

本田は「頼む!」と両手を合わせて言ってきた。


ど、どうしよう…。