「波に髪が揺れてコエーしさ、貞子じゃねぇかよ…。お、俺、呪いのビデオ見てねーし、マジ頼むから呪わないでくれよな…」
死体に話しかけながら、なんとかふもとまで引っ張ってきた。堤防の外側の砂浜に死体を何とか引き上げた。
 「は、針、外さなきゃこ、コエーよぉ。」
海人はビビりながら死体に近づく。
 「ナムミョーホーレンゲーキョー…ナムー、ナムー…」
手を合わせながら引っかかったルアーに手を伸ばす。
 「んがっ」
あまりにビビり過ぎて躓いてしまう。
 「わっ、わっひ、ひぃっ」
コケて死体の胸に顔を埋めてしまった。
 「つ、つめてーよぉっっ」
顔を離すと、今度はもっと恐ろしい事に、目の前に顔が…。
 「ひゃっひゃっひぃー」
パニックだ。恐くて恐くて仕方ない。もうあたふたし過ぎて死体の胸を掴んでしまった。
 「うわっうわっ」
そのまま力を入れて上体を起こそうとする。その瞬間、死体の口から海水が噴き出し海人の顔にかかった。
 「え、エクトブラズムだぁっ」
 ほとんど錯乱状態だ。恐怖と寒さで体が動かない。
 「呪われる呪われる」
 もがけばもがく程死体と密着してしまう。しかしその時だ。
 「ゴボッ…」
 死体の口から微妙に海水が出てきた。
 「えっ…?海水吐いてる…?も、もしかして…まだ助かる??」
 人助けというより、呪われたくない一心で、思わず人口呼吸をしていた。
 (助かるなら助かってくれよぉ…。なるべくなら死なないでくれよぉ…)
 海人は必死で唇を重ね息を吹き込んだ。