徐々にだが、ゆっくりと近づいてくる。
 「くっそー、これがマグロだったっていうミラクルないのかよ」
あまりの悔しさに一人でブツブツ言いながらリールを巻く。
 薄暗くなってきた中、何となく引っかかった物が見えてきた。
 「何だあれ?木…じゃねぇな…。あれ?服着てる??な、何だよ、マネキン??おいおい、マネキンなんか海に捨てんなよ〜」
 どうやら捨てられマネキンのようだ。
 「ワカメにマネキン…ろくなモンじゃねーなぁ…。」
部長や景子の心配を振り切ってまで台風の中釣りに来たのに、これじゃ明日笑われるとか思っているうちに、足元まで寄ってきた。
 「記念に持ち帰ろうかな…。」
 海人は屈んでマネキンを良く見た。
 「凄げぇ精巧なマネキンだな…。…これ、マネキンか…?」
 妙にリアルだ。
 「マネキン…じゃねぇひ、ひぃっし、死体だっこりゃ死体だな、何だよっっ、ドザエモン釣っちまったっぺよー」
 完全に人だった。顔は真っ白で唇も色が変わりかけている。
 「ど、どうしよう切るか…?い、いや、そんな事したら呪われる取りあえず堤防のふもとまで引っ張ってって警察に電話するか…あー、ナンマイダーナンマイダー呪わないでくれよ?俺は悪くないんだ」
 海人は及び腰で死体をふもとまでゆっくりと引っ張って行った。