「釣れそうな時に釣れるのは普通の釣り好きさ。俺レベルになるとこんな台風の時に釣らないと満足できないんだよな。やっば俺は他人を寄せ付けない釣りキチだって事だ」
 寄り付かないだけなのだが…。そして仕掛けが出来ていよいよ竿を握り投げた。
 「うりゃ」
空高く舞い上がった仕掛けは風で戻され足元にポチャンと落ちた。
 「なるほど…そこが今日のポイントなんだな?ありがとう、自然」
どうやら自然とも意思疎通が出来るようだ。基本的にプラス思考。悪く言えば失敗を認めない。
 「これだけ荒れると魚も身を守ろうとするはず。という事はやっぱ堤防沿いがポイントと言う事だ。凄いな俺って。この分析力」
 投げるのを失敗した事を、ここまでプラス思考に変えられる凄い男。それが海人だ。
 「…」
もしかして穏やかな港の中の方が魚が身を寄せ易いのではないか…、ふとそう思ったが気づかない振りをする頑固者。
 「カモ〜ン、カモ〜ン」
竿が海に引き込まれる程の当たりを待つ海人。気づけばもうカモンカモン言い続けて12時間…夕方17時になっていた。
 「つ、釣れねぇ…」
釣り上げたものと言えば引っかかったワカメだけだった。
 「ワカメだけっちゃあっかよか、神よ、俺にパヲォォォン」
パワーと言いたかったが寒くて口が回らなかった。