まだむしゃむしゃ饅頭を食いながら海人は言う。
 「お前も俺も一緒だよ。」
 「えっ?」
 「きっと大口の仕事に追われて個人店の仕事を後回しにした結果忘れたんだろ?俺もそうだったよ。みんなそうだ。でもな、ある時気づくんだよ。大口はビジネスライクで、価格優先で仕事を決めるんだ。どんなに尽くしても他社が価格出して来たらサヨナラさ。ミスしたら罰金だの何だの騒ぐ。でも個人店はこっちの努力や頑張りを見てくれるんだ。ミスしてもそれを真剣に対処すれば認めてくれる。俺を認めてくれるんだ。きっと他社は安い見積もり出して来てるだろう。でもオッチャンは俺を信頼してくれてるから他から商品を仕入れないでいてくれるんだ。だから俺もオッチャンの為に頑張った。個人店を大事に出来ないようでは大口になんて到底認めて貰えないぞ?」
 「は、はい…」
 「確かに売上考えたら大口優先になんだろ。でもな、仕事の満足度は個人店の方が遥かに上だぞ?人間性も磨かなきゃならない。大口でミスしたらペナルティー与えられてすぐ罰金罰金言われるからお前は謝る事しかできなくなってるんだ。だから個人店でミスを取り返す勉強をお前はしなきゃならないんだよ。優秀にだけなろうとするな。たくさんミスをするけど優秀な営業になれよ、景子。」
 「はい…」
何か海人の言葉がすっと心に入ってきた。