「行ってきま〜す」
彩香と暮らし始めるまでは、ただセコムをかけるだけの朝だった。
 「あ、忘れ物だよ?チュッ」
 「でへへ」
今やすっかりお出かけのチューが楽しみになっていた。一人の方が気楽で楽しいと思っていた海人だが、まさか自分がこういう生活をいいと思うようになるとは思わなかった。自分でも驚いている。
 車を走らせている間、ずっと胸は躍る毎日。楽しくてしょうがなかった。
 会社に着き事務所に入る。元気よく挨拶して机に向かう。
 「あの…。」
景子が暗そうな顔をして話しかけてきた。
 「ん?どうかしたの??」
顔を覗き込むが、口をつぼめて不安そうに海人に視線を向けた。
 「昨日、丸山スポーツさんから注文受けてた商品が間に合わなくて、お客様を怒らせてしまって…。丸山スポーツさんにも迷惑かけてしまって…。両方とも怒ってて私、どうしたらいいか…」
虫が死にそうな声で、今にも泣きそうだ。
 「そりゃ怒るわな。俺でも怒るわ。」
 「はい…。」
どうやら本気で落ち込んでいるみたいだった。