変人

　何か色々持ってそうな感じがする。手首の傷跡の多さもそれを物語っていた。
　｢私ね、死にたい死にたいってずっと思って生きてきたけど、それは違うって、今気付いたの。私は死にたいんじゃなくて、ごく普通の幸せが欲しかったんだって。海人と触れ合うだけでこんなに幸せを感じる。出会って１日ぐらいだけど、この１日に私が欲しかったものがギュッと詰まってた。昨日は何で助けたんだって怒ったけど、今は違う。助けてくれて、そして出会ってくれてありがとう。｣
　｢よ、よせよ照れくさいわ｣
思わず目線を外す。
　｢私、わがまま言わないし、何でもするから、見捨てないでね？｣
　｢どうしようかなぁ？メンドクサイなぁまぁ、この傷が消えるまでは置いといてあげるよ。｣
ついついふざけたくなる海人。
　｢この傷、消えないもーん｣
　｢消えるよ｣
　｢絶っっ対消えないもん｣
ムキになる彩香をギュッと抱きしめる。
　｢だったらずっとここにいろよ？｣
　｢海人…｣
彩香の瞳から涙が溢れた。彩香の人生になかった温もり。ずっと欲しかったものがそこにあったからだ。
　｢メンドクサくても捨ててやんないからな？覚悟しろよな？｣
　｢うん…。｣
これから彩香に降りかかる悲しみ、苦しみ絶望は、この瞬間を糧に生きて行く事になる。彩香の、決して幸せとは言えない未来は、今、動き出した。