翌朝4時。海人は車に乗ろうと玄関を開ける。同時にとんでもない風に吹き飛ばされそうになる。
 「どぅわっこ、こりゃヒデェ…。」
分かってはいたが少々ビビる。
 「ヤメヨウカナ…。…ん?えっ?今俺、何て言ったんだや、やめねぇよやめる訳ないじゃねーかよなぁ、台風」
空を見上げ台風に問いかける。
 「準備は昨日終わってる。よし、行くぞ」
 凄い雨風の中、車に乗り込み出発する。ワイパーが意味を成さない程の激しい雨の中車を走らせお気に入りの堤防に到着した。
 「スゲー、今日は独り占めじゃん」
それはそうだ。こんな嵐の中、釣りをしようとする馬鹿は一人しかいない。普段は朝からびっちりとひしめき合っている堤防も今日は無人。
 「みんなビビりやがって釣りキチたるの、こんな風ぐらいで…、どぅわっ」
 その瞬間、突風で体が押し流された。
 「…」
無言でライフジャケットを身につけた。
 「全ての事を予測して準備するのが釣りキチだよな…。」
なにやらブツブツ言いながら荷物をかつぎ港の堤防へと歩き出す。
 堤防を歩くと右から左から波がぶっかかる。
 「波がザブン、ザブン、ザブングルっっ」
意味不明な言葉で気合いを入れる。若干怖いようだ。幸いな事に堤防のへりには高さ1メートルほどの壁があり、それが気休めでも波と風を若干防いでくれるから助かった。
 「全く手荒い歓迎だよオーシャンパシフィックさんよ」
やはり意味不明だ。これでは女も寄り付かないわけである。なにはともあれ竿を出し用意を始めた。