一目散に帰宅する海人。釣り以外にこんなに胸を踊らせて車を走らすのは初めてかもしれない。しかしその裏では、彩香が家に留まっているかどうかの不安もあった。もし居なくなってたら寂しいと感じる程の存在である事に気づく。
 家につき視線を家に向けると明かりがついているのが見えた。それだけで安心できた。
 「ただいま」
ただいまだなんて久しぶりに言った。
 「おかえりなさい」
その一言だけで物凄く心が温まる。何度も言いたかったが、馬鹿だと思われるのでやめた。
 「じゃ、行こうか?」
 「ホント、別にいいんだけどな…」
遠慮がちと言うよりは、本当にそう思っているような様子だ。
 「買い物するだけでも楽しくなるから。さ、行こう。」
 「うん。」
そのまま出掛けようとする彩香。
 「あ、俺も着替えるから待ってて?」
海人はジャージに着替えて戻ってきた。
 そんな海人を見て微笑した彩香。服がなく、ジャージ姿の彩香に合わせてジャージに着替えた、さりげない優しさに嬉しくなったりした。
 車を走らせた海人が、庶民的なショッピング・モールを選んだことも彩香にとっては嬉しかった。