変人

　一息ついて彩香が喋り出す。
　｢私、生まれてからずっとね、いろいろ辛くて本気で楽しんだりした事なかった。あの崖から飛び降りる時が今までの人生で一番心が安らいだ瞬間だったの。もう辛い思いしなくていいって思ったら、そりゃ飛び降りた時は怖かったけど、海が近づくにつれて、なんか私は竜宮城に行けるんじゃないかって思ったの。きっと楽しいんだろうなぁって。そんな私が、今海人とこうして喋ってる瞬間が今までの人生で一番楽しいって感じる。こんなに素直に笑えるなんて、信じられないくらい。もしかしたら私は竜宮城に来れたのかもしれないね。このお屋敷が私の竜宮城なのかもって思える。｣
　真面目な顔で話されて海人もかしこまる。
　｢まぁ、難しい事考えないでここでゆっくり暮らせばいいよ。｣
　｢うん。｣
　海人はそう言ったものの、心の中では、その内もともと生活していた場所へと帰るんだろう、と思っていた。このままずっとここで生活するのは現実的ではない。それまでのお預かりだと思っていた。
　｢お、俺も風呂入ってくるよ。｣
　海人は風呂に入る。
　(何か変な事になっちゃったな…。別に迷惑は感じないけど…でも…我慢できるかな…)
　先程の彩香の全裸を頭に蘇らせると、ついついムラっときてしまう海人だった。