真理亜に気付かれないように持っていたカバンで顔を半分隠しながら彼女を探す。

(あそこかな?)

ガランと客の少ない店内で真理亜を探すのは簡な事だった。

彼女のすぐ後ろの席にすばやく腰を下した。

男と話す声。

「一体どういう事?!」

「別にいいやんけ。言うとおり、痛い目にあわせたんやから。」

「それじゃ失敗じゃない!
あなたにはちゃんと高い報酬払ったでしょ?!」

どうやらその男ともめているようだ。

(一体、何の話?)

耳を立てて必死で盗み聞きをする。

「それに、どうして私の名前を口にしたの?!
もう少しでバレるところだったわ!」

「仕方なかったんや。
俺は最後までしようと思ったら、おっさんに邪魔されて…」

「失敗したんだからお金返してよ!」

真理亜は男に食いついた。

(ま、まさか…その話…
 佐奈さんの事?)

真理亜が仕組んだ。

(うそ、うそだろ…?)

僕が見ていた真実って一体なんだったんだろう?

僕は佐奈を信じてやれなかった。

(情けない……)

真理亜の裏切り、そして愚かな自分への怒りが黙々とこみ上げてきた。

目の前の何かが音を立てずに一気に崩れ落ちて行った。