― 佐奈のアパート ―

あのまま無我夢中で家まで走ってきた。

明かりもつけず、テーブルにうなだれている。

ヒューヒューと冷たい風の音が窓ごしに聞こえてくる。

その風は佐奈の心の中にも吹いていた。

あの事件以来、佐奈は熟睡する事ができなくなった。

たびたび夢に出てくる。

恐怖に怯えてどれだけ叫んでも誰も助けにきてくれない。

夢から覚めると本当に涙を流している。

(ベンのアホ…)

自分がどんどん本気で好きになって行く事を後悔する。

(住む世界が違う…ってどんな世界?)

自分なりに真っ直ぐに生きてきた。

がんばってたら、いつか良い事がある…

自分だって幸せになれる…

(一瞬でも夢見た自分がバカやったんや。)