佐奈は逃げるように走りだした。

「おい!佐奈。
 待ってるで~!」

(やっぱり無理やわ。
前みたいに冗談言うたり、笑ったり…もう会わん方がいいねん。)

佐奈は苦しかった。

会いたくてたまらないのに汚れてしまった自分がイヤで…

(ベン、ごめん。
 …さよなら。)

部屋に戻ってまた一人泣き崩れていた。


クタクタ、フラフラでようやく家にたどり着いた僕はそのままベッドに倒れ込んだ。

(あ~、地獄だ。
今からまた明日のテストの準備をしないと…)

今まで、ろくに肉体労働をした事がない僕にとってこのバイトは本当にキツイ。

(佐奈… さーん…)

ブツブツ言いながら5分も経たないうちにそのまま眠りについていた。


真理亜はあの佐奈と言う女があの店にもう来ていない事を知ってほっとしていた。

それでも真理亜は物足りなかった。

自分の思い通りにはいかないから…

「勉君、日曜日にコンサート行かない?
気分転換に良いわよ。」

「ごめんなさい。
僕、用事があって…」

いつも断られていた。

(どうして?なんで?)

真理亜はプライドが高い。

いつも男たちにモテはやされている自分がこんな惨めな思いをするとは…

(許せない。このまま引き下がるつもりはないわ。

絶対私のモノにしてみせるわ。)

その目は獲物を狙う猛獣のように鋭く光っていた。