僕は走って【たこ萬】へと向かっていた。

（遅くなっちゃった。）

真理亜に引きとめられたのは結局なんだっただろう？

そんな事を考えながら走っていると、急に路地から男が飛び出してきて出会い頭にぶつかってしまった。

「痛ーっ！」

体力のない僕はそのままよろけて尻持ちをついた。

「こらーっ！どこ見て歩いてんねん。」

ぶつかった男が僕を睨みつけて怒鳴った。

「す、すみません。」

僕は反射的に頭を下げた。

一瞬の出来事で……

顔をあげると、もう男たちの姿はない。

僕はゆっくり起き上り、お尻をはたいた。

「危ないな～、いきなり飛び出してきたのはそっちだろ！」

見えなくなってからぶつぶつと文句を言う。

つくづく気の弱い男だ。

打ったお尻を気遣いながらようやく【たこ萬】にたどり着いた。

（あれ？のれんがかかっていない。）

店の中は空っぽ…

佐奈もおじさんの姿も見えない。

（一体どこへ行ったんだろう。）

しばらくその辺を探しにウロウロしていると暗い路地からおじさんの姿が見えてきた。

「おっちゃん？！」

近づいて行くと、おじさんは誰かをおぶっている。

「来るな！
こっちにくるな。」

おじさんが怖い顔で怒鳴った。

初めて見る顔…

後ろにおぶっているのは誰？

（佐奈…さん？）