「では、僕はこれで失礼します。」

彼女に挨拶をしてその場を立ち去ろうとした。

「ちょっと、待った!」

その叫び声に一瞬立ち止まって振り返った。

僕はさっきから何かがひっかかっている。

(どこかで聞いた声?)

「ガリ勉くん、ちょっと待ち。」

その呼び方をするのは……?

心当たりがある。

近くまで行き、彼女の顔をじっと見た。

(ま、まさか、あの[ガングロギャル]!?)

「うち、佐奈やで。わかれへんかった?」

分かる訳がない!全くの別人だ。

いつも派手な格好に黒いメイク。

ありえない……

― 呆然 ―

「うちかて、昼間からあんな濃いメイクしてる訳ないやんか。」

まだ声がでない。

「おかしい?うちがスッピンやったら。」

(裏切りだ!僕は[ひまわりさん]に裏切られた……)

勝手に想像し、勝手に裏切られている。

「そ、それにしても……
佐奈さん、どうしてここにいるんですか?」

「うち、昼間はここでアルバイトしてるねん。」

またまた意外だ。

「なんか、さっきからうちの事、化けもんみたいに見てるな~。」

(確かに、その通り!)

「いつまでも夜の仕事してられへんしな。」

(案外まともな事を考えているんだ。)

「まあ、昼間はあんまり知り合いと会いたくないねんけど、見られたら仕方ないな。」

(知らない方がよかった…)

ここで働いてる事、誰にも言わんといてな。」

「は、はい。」

まだショックから立ち直れず動揺を隠しきれない。

(早く帰りたい。)

僕は彼女に背を向け、もつれる足で走り出した。

(僕の[ひまわりさん]があの佐奈さんだったなんて……)

ひつこいぐらい現実を受け止められない男だ。