ガリ勉くんに愛の手を

店には佐奈と僕の二人きり。

どちらとも話そうとせず、さらに店はシーンと静まり返った。

恥ずかしさを紛らわすように二人とも別々に後片づけを始めた。

佐奈はカウンターの中、僕はのれんを店の中に入れ、テーブルを拭いている。

こうやっていると、おじさんと3人で働いていた頃の懐かしい思い出がよみがえってくる。

そんなに時間が経ってもいないのに……

僕にとってここが一番居心地の良い場所なんだ。

そう、彼女がそばにいるだけで。

「ベン。」

急に声をかけられて驚いた。

「は、はい。」

「もう片付いたし、閉めようか?」

「そうですね。」

二人は店の外に出てシャッターを閉めた。

「今から……
どうする?」

佐奈の方から言葉を切った。

僕が今日、【たこ萬】に来たのには理由があった。

「行きたい場所があるんですけど、一緒に来てもらえますか?」

「う…ん。」

佐奈は理由も聞かず、僕について来てくれると言った。

恋人同士なら手をつないだり肩を抱き、寄り添って歩くのに……

僕にはまだそんな勇気はない。

(後ろから見るとホンマに背中が広くなってて、
思わずベンに抱きついてしまいたい…

ア、アホ!うち何考えてるんやろう…)

佐奈がそんな事を考えているなんて気付く余裕なんかなかった。

こうやって近くにいるだけでもう息が苦しくなるほどときめいているんだ。

雪の中で佐奈を抱きしめたのは本当に僕だったの?

そう、あの時!

無我夢中でよく覚えていないけど、二人が抱き合っていると、いつの間にか周りに人がいて…

・・・・・・・・
パチパチパチパチッ!

「勉君、最高ー!」

(えっ?!)

なぜか撮影スタッフが僕たちを囲んでいる。

それに気付いた僕と佐奈は慌てて離れた。