ガリ勉くんに愛の手を

―佐奈の気持ち⑩

うちはあゆ美さんにちゃんとお礼も言わずに走り出した。

後ろを振り向く事なく、ただ健二たちがいる撮影現場に向かってひたすら走り続けた。

この撮影は絶対止めさせなあかん!
うちのせいやから……

うちはベンを殴った酔っ払いが健二やって事を誰にも言わへんかった。

それは健二をあんな風にしてしまった罪悪感。

健二に対して後ろめたい気持ちがあったから。

でも、まさか健二がベンの代わりに出るなんて考えもせえへんかった。

このまま健二がCMに出たらベンはどうなるの?

そんな事うちが絶対させへん。

これ以上ベンを傷つけたくない。

そんな気持ちがうちの足を急がせる。

そして撮影のセットらしき風景が段々見えてきた。

あそこや!

うちは息を切らしながらその場所へと近づいて行った。

でも何か様子がおかしい。

スタッフの姿はもちろん肝心な健二たちの姿もどこにも見当たれへんし。

まさか、終わった?

その瞬間、足がピタリと止まった。

……遅かった。


またうちはベンに何もしてあげられへんかった。

力が一気に抜け落ちてガックリと頭をうなだれる。

呼吸はハァハァと乱れたまま。

どうしたらいいの?

考えても仕方がない。

情けない気持のまま戻るしかなかった。

その時、ふと反対側の木の下で体を小さく丸めて手を伸ばしている誰かの姿が目に飛び込んできた。

あれは……?

遠くにぼんやり浮かぶその姿。

ベン?ベンやのん?

心でつぶやきながらうちの足はいつの間そこに向かって歩き出していた。

なんで、こんな所にいてるん。
そこで健二の姿を見てたん?
どんな気持ちで……

苦しかったやろ?
辛かったやろ?

ベン。

うちの大切な人……