この世界では失敗など許されない事だ。

こうやって時間を引き延ばしたところで、ちあきにもどうする事もできない。

(できれば勉君でやりたかった。
でもあのケガじゃ治るまで1週間以上はかかるわ。)

今日の撮影を逃すとこの企画は完全に流れてしまう。

ちあきは焦る気持ちを必死で抑えながら色んな手段を探っていた。

その時、

♪プルルルル…プルルル…♪

急に胸のポケットから鳴り出した着信音に一瞬、心臓が止まりそうなくらい驚いた。

すぐに携帯を取り出し、相手を確認する。

(非表示……誰かしら?)

不審感を抱きながらその電話に出た。

「もしもし、もしもし?…あ、あなたは!?」

意外な人物からの電話。

電話の主はちあきの救世主なのか?!


 
あゆ美が喫茶店を出てからもう1時間が経つのに僕はじっとここに座ったままだ。

体の具合も悪いが、あゆ美との別れが相当応えている。

短い間だったけれど愛情とはまた別の深い絆で結ばれていたような気がする。

今思うと、あゆ美は僕にとって姉のような存在だったのかも知れない。

くよくよしていても何も始まらない。

あゆ美にもあんなに励まされたじゃないか。

(そろそろ行かなくちゃ。)

気持ちを切り替え、あゆ美にもらったコンタクトを手に取った。

左目はほとんど開かないので無理だが、右目は大丈夫だ。

(ちょっと見にくいけど、なんとか歩いて行けるかな。)

あとは帽子とダテメガネをつけて顔を隠すように店を出た。