ガリ勉くんに愛の手を

でも理由はどうであれ僕はあゆ美の夢を奪ってしまった。

「今から佐奈さんに会いに行くんでしょ?」

「は、はい。」

「じゃ、これをつけて行きなさい。」

あゆ美は紙袋の中から帽子とメガネ、そしてコンタクトレンズを出してくれた。

「そのままの格好じゃ目立ってバレてしまうわ。
そのメガネはただのダテメガネよ。」

「ありがとうございます。」

最後の最後まであゆ美は僕の為につくしてくれた。

「勉君、気をつけてね。
今ミナミはCM撮影の事で大騒ぎしてるから見つかったら大変な事になるわ。」

「わかっています。」

「そう、覚悟はできているのね。」

「はい。」

「私はもう一緒には行けないわよ。」

それはあゆ美との別れを意味する。

もともと芸能界を夢見てつながった仲だ。

その夢が失われた今、もうあゆ美と一緒にいる理由はなくなった。

そしてあゆ美は立ち上がると僕に手を差しだした。

「あなたと出会えて本当に良かった。
がんばってね、勉君。」

僕はその手をギュっと握りしめた。

泣きたい気持ちを必死でこらえ、あゆ美の去る姿をしっかり見届けたのだった。


―ミナミの御堂筋通り

イチョウの木がうっすらと黄金色に光るその場所で今夜行われるCM撮影の準備が着々と進んでいた。

その裏でプロデューサーやディレクターが集まってまだ決まらない主役をどうするか話し合っていた。

「ちあきさん、どうします?マスコミが大泉の入院している病院までかぎつけたらしいですよ。早くなんとかしないと。」

ディレクターがちあきに結論を急ぐ。

CM撮影を中止にする事は莫大な損失を招く事になる。

かと言ってこんな急に代役を探すのも不可能に近い。

(一体どうすればいいの?)

ちあきも追い詰められていた。

「あと少し時間をちょうだい。」

ちあきはそう言ってその場を離れた。