ガリ勉くんに愛の手を

壁をつたいながらやっとの思いで3階から1階まで降りて来た。

すれ違う人影がみな幽霊にも見える。

裏口の扉から外へと出て行く。

(ここはミナミ……?)

出たのはいいが、メガネがないと方向さえつかめない。

(とりあえず歩いて行くしかないな。)

ここから【たこ萬】へはどう行けばいいんだろう…

腰に手をあて、一歩一歩亀のような速度で前へと進んで行く。


ちょうどその頃、あゆ美は病院に舞い戻っていた。

(勉君、意識戻ったかしら?
何も言わずに出て来てしまって不安がってるかも……)

あゆ美もまた僕を置いて出て行った事を悔やんでいた。

そして着替えの入った紙袋を下げて病室へ。

パタン。

(あれ?いない。)

空っぽになったベッドを見て慌ててナースステーションに問い合わせた。

「あの、302号室の大泉勉が病室にいないんですけど…」

対応に出た看護婦が、
「さっき部屋に昼食を運んだ時はいらっしゃいましたよ。」

(着ていた服がないわ。)

あゆ美は僕が病院を出た事を直感し、急いで階段を降りていった。

(なんて無茶な事を!でも、あの体じゃ遠くへは行けないはず。)

玄関から表へ出て辺りを見渡しながら必死で僕の姿を追いかけた。

そして……

(あっ!)

「勉君―っ!」

(その声は?!)

僕はゆっくりと振り返った。

息切らしながらあゆ美が僕に向かって走ってくる。

「ハァー、ハァー…」

「あゆ美さん?」

「その体でどこへ行くつもり?!」

「そ、それは……」

「また私に黙って行くの?」

その言葉は僕の裏切りに対する彼女の精一杯の訴えだった。