ガリ勉くんに愛の手を

「午後に検査を行いますのでそれまで安静にしていてください。」

「はい。」

先生が病室を出てからまたベッドに横になった。

包帯が取れ、ぼやけたままの視力で天井を見上げる。

僕が気を失ってからここへ来るまでの間、一体何があったんだろう?

佐奈は?健二は?
二人はあれからどうしたのか?

病院へ運んだのは多分、あゆ美だと思う。

あの時、あゆ美は僕が時間までに帰って来ないのを心配して店に行ったに違いない。

昨日の出来事を一つ一つ思い浮かべながら記憶をたどって行く。

でもどうしても思い出せない。

知りたくても誰に聞けばいいのかもわからない。

あゆ美もショックのあまり僕を置いて出て行ってしまったし、こんな顔をして佐奈に会いに行く勇気もない。

(佐奈さん。)

会えないとわかっていても頭に浮かぶのは佐奈の顔。

次に会う時は必ず佐奈の理想の男に、カッコイイ男になって会いに行くって決めていたのに。

僕は以前と何も変わっていなかった。

健二の言う通り、ただの弱虫のガリ勉だ。

そんな僕を見て佐奈は涙を流していた。

なぜ?僕が可哀想だから?

・・・・・・・

「……うちの大切な人を傷つけんといて……」

(思い出した!)

意識が失われる瞬間、確かにそう聞こえたんだ。

佐奈の声が!

夢なんかじゃない。

僕は今まで自分の事しか考えていなかった。

彼女の気持ちに気付いてやれなかった。

(会いに行かなきゃ。)

彼女を一番悲しませていたのはこの僕だったんだ。

自力で起き上ろうとベッドの手すりを持ちながら足をおろした。

(痛いっ!)

足を地についた瞬間、ビーンと背中から腰に痛みが走った。

(人が来る前にここから早く抜け出さなければ…)

歯をくいしばって立ち上がり、やっとの思いで服を着替えた。

そして壁にかけてあったジャンパーを持って病室を出た。