ガリ勉くんに愛の手を

朝になってシーンとしていた廊下が急に騒がしくなってきた。

カタカタとワゴンをひいて部屋の前を何度も通って行くのがわかる。

目が見えないと音に敏感になるようだ。

しばらくすると、部屋のドアがゆっくりと開いて誰かが入って来た。

(誰?)

「大泉さん、具合はどうですか?」

中年ぐらいの男性の声。

多分、担当の医者が診察にやって来たんだろう。

看護婦さんが僕の体をベッドから起こそうとした。

「痛っ!」

「大丈夫ですか?
腰を強く打ったようですね。あとでレントゲンを撮りましょう。」

そして顔に巻かれた包帯をほどいていった。

「ゆっくりと目を開けてください。」

右目はなんとか開いたが左目のまぶたはひどくはれ上がってほとんど開かない状態だ。

「私が見えますか?」

白い服を着た先生の姿がぼんやりと浮かんで見えた。

「あの、先生。もともと視力が悪くてメガネがないと全然見えないんです。」

「そうですか。
一応メガネをはずした時と同じぐらい見えていますか?」

「はい、右目だけはなんとか。」

僕は軽くうなずいた。

「眼球には異常がないみたいですし、腫れがひけば大丈夫ですよ。」

その言葉に安心と言うよりむしろがっかりした。

これだけ色んな人に迷惑をかけておいて大丈夫だったなんて……

今は自分の体が傷ついて元に戻らない方が……

その方が周りから同情されてよかったのかも知れない。

その方が楽になれそうだった。