「なんで?どうして?
勉君、私と約束したじゃない?!
ちゃんと戻ってくるって。
信じてたのに…うぅっ…」

あゆ美は床にうずくまったまま何度も地面をたたきつけた。

その怒りと悲しみの声は僕の心臓をグザリと突き刺した。

(あゆ美さん、ごめんなさい。
全部僕のせいだ。僕が勝手な事をしたから…)

あゆ美は僕の意識が戻っている事に気付いていない。

もし気付いていたなら多分僕には直接言わなかっただろう…本当の気持ちを。

僕は臆病で卑怯者だ。

ちあきに謝らなければならないのは僕の方なのに。

怖くて言い出せず、逃げてしまったんだ。

(もっと責めて僕を思い切り憎んでください。)


僕の身勝手な行動がどれだけの人に迷惑をかけたか。

謝って済まされる問題ではない。

もう何もかも終わってしまったんだ。

どうしようもない悔しさで涙が流れても僕の涙は気付かれる事なく顔に巻きついた包帯がすべて消し去ってしまう。

とても苦しくて、辛くて。

何よりあゆ美の夢を打ち砕いてしまった事。

そして彼女を深く傷つけてしまった。

あゆ美に声をかける事もできないまま時間だけが流れて行く。

しばらくすると、扉が開く音がした。

そしてあゆ美は静かに病室を出て行った。

何も見えない不安と孤独感が僕をさらに追い詰めていく。

本当はあゆ美に言いたい事があったのに。

本当は聞いてほしかったんだ。

昨日あそこで何があったのか?

身勝手な言い訳かも知れない。

でも大切なものを守りたかった。

あの時、全部を捨てても良いと思った。

後悔はしないつもりだった。

でも結局僕のした事は誰の為にもなっていなかったんだ。

佐奈を守りたい一心で健二に向かって行ったけれど僕は彼女を守りきれなかった。

それどころか彼女に助けてもらったなんて。

情けない男だな。

佐奈もきっとそう思っているに違いない。

もう会えない。
あわす顔がない…