その話のやりとりを聞いて今、僕が置かれている立場が最悪だと言う事に気づいた。

記憶をたどって行くと、僕は【たこ萬】で健二ともみ合いになり顔をボコボコに殴られ、そのまま意識を失ってこの病院に運ばれて来たようだ。

そして顔中に包帯を巻きつけ、ずっと気を失ったままベッドに横たわっていた。

その傍らであの気の強いあゆ美が僕の代わりに涙を流しながら、ちあききに必死で謝っている。

そんなあゆ美を容赦なく追い詰めるちあき。

「責任?あなたがどう責任を取るって言うの?」

あゆ美は涙を拭い、ちあきにすがりながら精一杯頼んだ。

「ちあき、お願い!
もう一度だけチャンスをちょうだい。
勉君のケガが治るまで撮影を延期してほしいの。」

あゆ美は無理を承知でちあきに頼み込んだ。

「正気?この撮影がどれだけの時間とお金がかかってると思っているの?
50人のスタッフが今日の撮影のために東京から来て準備をしているのよ。
それをあなたたちが……冗談じゃないわよ!」

「でも勉君がいないと撮影ができないでしょ?!」

「そうよ、その通りよ。
それがわかっていてなぜ勝手に外出なんかさせたの?」

あゆ美はそれ以上言い返せなかった。

「見損なったわ。
あなたを信じた私がバカだったのよ。」

「ちあき…」

「もうあなたたちにはこの仕事からは一切降りてもらうから。あとはこっちで何とかするわ。」

あゆ美は最後の望みを託してその場で膝まづいた。

「ちあき、お願い!
それだけは…」

バタンッ!

振り返る事なく、ちあきは出て行った。

重苦しい空気がこの部屋全体を包み込む。

さっきまで聞こえていたあゆ美のすすり泣く声がぴたりと止まった。

そして我慢していた思いが一気に爆発したように号泣しはじめた。

「う、うぅっ……うわぁー!」