一瞬、手で顔を覆ったが時すでに遅し。

健二はペタリと座り込んだまま動かない佐奈を見て冷たくささやいた。

「佐奈、お前最初から知ってたんか?
まさか…こいつとデキてんの?
それでグルになって俺をハメる為に東京についてきたって事?」

健二は完全に誤解している。

「ち、違う!そんなん違う。
うちは健二とやり直す為についていったんや。」

佐奈の必死の訴えも健二の耳には届かなかった。

「佐奈、お前がそんな汚い女やったとはな。」

佐奈を悪く言うな!

「佐奈さんは関係ない!
僕が自分で決めたんだ。」

「黙れっ!全部お前のせいや。お前さえ現れへんかったら…」

健二の怒りが爆発した瞬間、その拳が再び僕に襲いかかってきた。

殴られ、仰向けに倒れた僕の体に馬乗りになって何度も何度も顔面を殴りつけた。

「健二、やめてーっ!」

後ろで佐奈が泣きながら健二の腕にしがみつき助けてと叫ぶ。

「どけっ、こいつだけは許されへん!」

バンッ、バンッ…!

一発、また一発、健二は容赦なく僕の顔をつぶしていく。

もう誰も健二を止められない。

「よぉ、ガリ勉!
俺から女も仕事も取って気分ええやろ?!
俺を見て笑ってたんやろ?」
 
(うぅ…)

僕は言い返すどころか息もまともにできないぐらい苦しい。

「やめて!健二、ベンが死んでしまう!」

佐奈の泣き声もだんだん遠のいて行く。

少し開いた目にはすべてが赤く染まって見える。

殴られているのに痛いと言う感覚がなくなってきた。

マスクをかぶっているように顔が何重にも腫れあがっているようだ。

…やめて …やめて

薄れ行く意識の中でかすかに記憶に残ったのは…


「うちの大切な人を傷つけんといて…」