佐奈は今どんな気持ちで聞いていたんだろうか?

「は、はっはっは…
悪いけど、佐奈はお前みたいなひ弱なヤツは大っ嫌いやねん。
こいつ、昔から面食いでな~あきらめた方がええで。」

「そ、そんな事…あなたに言われたくない。」

健二の表情が次第に強張っていく。

そしていきなり僕の胸ぐらをつかんで、
「お前には最初から可能性ないんや。あきらめろっ!」

そんな脅しに負けるほどこの気持ちは軽くないんだ。

「あなたこそ、別れた彼女に付きまとうなんてみっともないですよ。」

「お前っ!調子に乗ってんか?!」

次の瞬間、
ボコッ!バタンッ!

「キャーッ!」

健二に顔面を殴られた勢いでそのまま入口まで吹き飛ばされてしまった。

(い、痛いっ!)

頬に激痛が走る。

口の中が切れたのか血の味がする。

これで終わるとは思っていなかったが、なぜが健二が立ったまま動こうとしない。


(あれ?どうしたんだ?ぼやけて見えない。)

「お、お前…お、お前は…?」

姿は見えないが、健二がやけに動揺しているのを感じた。

(一体、どうしたんだ?)

その状況に気付いていないのは僕だけだった。

(もうあかん、全部おしまいや。)

佐奈が一番恐れていた事が起きてしまった。

健二がこのまま済ますはずがない。

何がどうなったのか?

その場から起き上ろうと地面に手をついた時、手の先にガラスの破片が散らばっているのに気づいた。

そしてレンズのない枠だけのメガネ。

(ぼ、僕のメガネ?)

「驚いた。まさかこんなとこで会えるとはな、[大泉勉]くん。」

(し、しまった、健二さんにバレてしまった。)