オーディションを無事に終え、僕とあゆ美は今まで泊まっていた宿舎から今度契約する事になった大手プロダクションが用意したホテルへと向った。


―ホテルに到着して

「へぇ～、やっぱりすごいわね。
優勝した途端、待遇がいっぺんに変わるんだもの。」

あゆ美は広々とした部屋のソファーで足を伸ばしながらホテルライフを満喫しているようだ。

僕は未だに優勝した事がウソのようで、ここへ来てからもずっと落ち着きなくてウロウロしていた。

「勉君、オーディションも終わったんだし、今日はゆっくり休んでね。
また明日から取材やテレビのインタビューで忙しくなるんだから。」

（僕の最も苦手な事をしなければいけないんだ。）

優勝の二文字を目標にがんばってきたが、このあとの事を全然考えていなかった。

（僕が本当にテレビのＣＭに出れるのかな…）

今まで以上のプレッシャーが僕の背中にのしかかってくる。

「じゃ、私はそろそろ部屋に戻るわね。
勉君、今日は本当にお疲れ様。」

そう言ってあゆ美は隣りの部屋へと戻って行った。

一人になってようやく緊張が解けたのか、どっと疲れが押し寄せてきた。

崩れるようにそのままダブルベッドの上に大の字になって倒れ込んだ。

（ふぅ～。）

大きく息を吐いて天井を見上げる。

（今日は本当に忙しい一日だったな……）

朝からの出来事を順々に頭の中で整理してみる。

それにしても、さっき健二が言ってた事は本当なのか？！

佐奈が健二と別れてもう東京にいない？

あの二人に一体何があったんだろう…

（佐奈さん、今どこにいるの？）

そう考えると、いてもたってもいられなくてある所に電話をかけて見ることにした。

（おっちゃんなら何か知っているかも知れない。）