「ち、違うわ、誤解しないで。
審査は平等に行われたし、私情は一切はさんでいないわ。」

誤解を解こうとするちあきをあざ笑うかのように健二は、
「そうやな、私情をはさんでたらあんたは俺を選んでたやろうし…」

(あんた?)

健二の冷たい言葉に背筋が凍りつきそうになった。

「なんでアイツやねん?俺のどこがあかんかったんや?!」

今度は厳しい口調でちあきを問い詰める。

「さっき言った通りよ。
彼の純粋さが今回のCMには必要なのよ。」

「俺は汚れてるんか?
仕事の為に年上の女と平気で寝るし。」

「やめて、そんな言い方しないで!」

「最初から知ってたんやろ?
俺の目的を…」

(知っていたわ。でもいつしか本気であなたの事を…)

ちあきはその言葉を言わずに我慢した。

「さいなら…」

健二はそう捨てゼリフを残し、ちあきの前をすり抜けた。

「健二君、待って!」

健二は振り向く事無く、だんだんちあきから遠ざかって行く。

呼び止めてどうする?

決して本気で好きにならないとそう心に決めていたのに…

健二にだけは心に嘘をつけなかった。

(ねえ、健二君。
今日、あのホテルで待っていてくれないの?)

ちあきはプロとして仕事を選んだ。

でも健二の存在が今までの自分を壊してしまいそうで好きと言う気持ちを否定するしかなかった。