「だいたい、なんでイッコーさんがあんな事を知っているの?」

イッコーはその巨体をもじもじさせながら…

「昔…好きな人の子供が欲しくって色んな出産の本を読んで覚えたの。」

「はぁ~。」

あゆ美の最後の小さな希望もこの時点で消えてしまったようだ。

(ダメだ、こりゃ。)

「続きまして、エントリー№8 緒方健二さん、どうぞ。」

いよいよ期待の星、健二の番だ。

審査員たちの目が健二にひと際注目している。

健二はいつもと変わらず自信にあふれた表情で会場をゆっくりと見渡しながら前へ出てきた。

そしてその視線は一点だけを見つめ、渋い声で語り始めた。

「僕の好きな人は…年上です。

彼女はとても美しく、そして才能に満ちあふれていて僕には手の届かない存在でした。

僕は彼女を心から尊敬し、ずっと憧れをいだいていました。

でもいつしか見ているだけでは物足りず、彼女と話がしたい、そばにいたい、この手で彼女を抱きしめたい。
そんな欲望が僕の心に段々と芽生え始めたのです。

そしてそれが現実のものとなった今、僕の目にはあなたしか映っていない。

僕はあなたを心から…
愛しています。」

(健二君…)

その視線の先にはちあきがいた。

ちあきもまた目をそらさずじっと健二を見つめていた。

そんな二人を目の前に置いて僕は…

(健二さん、あなたは佐奈さんではなくちあきさんを選んだんですか?)

佐奈と健二が本当に別れたのならこんなにうれしい事はないはずなのに…

なぜか胸が痛い。

佐奈の悲しそうな顔が頭に浮かんだから…

佐奈が泣いている気がしたから…


健二の迫力に審査員たちは大きくうなずいた。

もう、決まりだ…

審査員だけでなくここにいるすべての人がそう確信したに違いない。

「では、最後になりました。
エントリー№9、大泉 勉さん、どうぞ。」

僕は震える足を一歩一歩踏ん張りながらゆっくりとみんなの前へ出て行った。