「勉ちゃん、あなたそれでいいの?
このまま引き下がって健二に優勝持ってかれてもいいの?」

イッコーはまだ諦めきれないようだ。

「僕だってできれば優勝したいですよ。
でも今の僕に勝ち目なんてないし、どうする事もできないんです。」

自信をなくした僕にあゆ美は優しく言葉をかけてくれた。

「勉君、あなたが嫌ならやめてもいいのよ。」

「あゆ美さん、ここで諦めるなんてもったいないわよ!」

イッコーは最後まで反対するつもりだ。

「この[上がり症]だけ、どうにかなれば…」

「上がり症?」

「はい、僕、緊張すると心拍数が異常に速くなって息ができなくなるんです。
昔、倒れた事もあるし…
こんな状態で大勢の前に出るなんて無理です。」

僕の言葉を聞いてイッコーは…

「なぁんだ、そんな事?」

「そんな事?」

あっさり返されてしまった。

「それなら私に任せてん。とっておきの方法があるの。」

「とっておきの方法?僕の[上がり症]治るんですか?」

「もちろん。」

イッコーはいつもの気持ち悪い笑みを浮かべ、早速僕を椅子から引っ張り上げた。

「あゆ美さんは出てくれる?」

「えっ?!私がいちゃいけないの?」

「だめよん。
勉ちゃんと二人でしたいの。」

(何を?!)

僕は[二人きり]になるのが怖い。

あゆ美を追い出すとイッコーは入口の鍵をすばやく閉めた。

そしてくるりと回転し、おしりを振りながら真っ直ぐこっちに向かって歩いてくる。

「勉ちゃん、怖がらなくていいわよん。
私があなたにとっておきのリラックス法を伝授してあげる。」

「リラックス法?」

「これさえマスターすればその[上がり症]も絶対解消されるわ。
私を信じて。」

ここで逃げ出すか、それともイッコーを信じて最後まで諦めずにやってみるか…

「やります!」

残り時間はあと20分。

やるしかない!