僕の前に立ったあゆ美は何も言おうとしなかった。

僕はそんなあゆ美の気持ちが痛いほどわかっていたから自分から声をかけた。

「あゆ美さん、本当にすみませんでした。
ここまで苦労して僕を応援してくれたのに…」

「な、何を言ってるの?
私はあなたを選んだ事を後悔なんてしていない。
本当によくやったわよ!」

あゆ美は精一杯僕をフォローしてくれた。

「二人とも気を使わなくていいですよ。
僕が一番わかってるから…」

  シ――――ン

それからしばらく沈黙が続いた。


もうずい分昔の事を急に思い出した。

あれは小学校の頃、学芸会の出し物で劇に出る事になって…

僕はほとんど出番もなくて最後の方で一行だけのセリフを言う家来の役だった。

そしてマイクの前に立ち観客の顔が目に飛び込んできた瞬間、頭は真っ白でセリフを言うどころか急に息ができないぐらい呼吸が苦しくて。

そのまま舞台の上で倒れて病院に運ばれて行った。

[極度の上がり症]

そんな病名があるのか?

それ以来、僕は舞台の上に二度と立つ事はなかった。

この年になってもまた同じ症状が現れるなんて本当に情けない。

僕はあゆ美に正直な気持ちをぶつけた。

「もう、無理です。
棄権させてもらえませんか?」

「勉君…」

あゆ美もまた僕を引き止めようとはしなかった。