時は過ぎ、いよいよオーディションまであと3日とせまった日。

僕はいつものようにジャージに着替え、トレーニングの準備をしていた。

「勉君、今日はスケジュールを変更して別の予定が入ったの。」

「はぁ。」

本当によく変更するものだ。

でも今さら何を聞いても驚かない。

ここへ来た時から僕に自由はないのだから。

すべてあゆ美のスケジュール通り動くだけ。

僕に決定権も拒否権も全くない。

ただあのきついトレーニングを1日でも休めるならこれほどラッキーな事はない。

(でも、もしかして今まで以上にきついトレーニングが待っていたら…)

そんな不安を抱えながらあゆ美に連れられて出かける事に。

お金のない僕たちはいつものように宿舎から電車で移動する。

「まずはここね。」

芸能人がよく通っていると言う完全予約制の美容室。

ここにカリスマ美容師がいるらしい。

僕は小さい頃から祖母に連れられて理髪店にしか言った事がない。

(今時の若者はこんな所で髪を切るんだ。)

僕はまったく時代についていけてない。

中に入るとホテルのロビーのように洒落た空間が広がっている。

そこに置かれた20席くらいのイスにはセレブな客がずらりと座って髪をセットしてもらっている。

受付にいた店員が僕たちに気付き、小走りで入口の方へとやってきた。