佐奈はあれからマンションへと戻っていた。

真っ暗な部屋の中。

(一人でいるとおかしくなりそう。
これからどうしようか……)

佐奈はカバンに入っていた携帯電話を取り出し、無意識に電話をかけた。

♪テュルルル…テュルルル…♪

「はい、大沢です。」

(おっちゃん。)

懐かしい声……

「もしもし?どちらさん?」

自分から電話しといて何を話せばいいのかわからない。

佐奈は今の気持ちを押し殺して明るい声で返事をした。

「おっちゃん!元気?」

「おお、佐奈か?
お前ずっと電話もしてこんと。

どうや元気でやってるんか?」

「うん。うちは元気やで。」

「そうか、それやったら安心や。
どないや?東京の暮らしには慣れたか?」

「う、うん。
おかげ様で健二が大切にしてくれてるから、うちは今めちゃ幸せやで!」

「そうか…お前、幸せやねんな。」

(おっちゃん、うち…)

「当たり前やん。
自分で決めたんやし…」

おじさんはその声を聞いて佐奈の様子を感じ取っていた。