―[ミナミ]のとあるジーンズショップ

黒いサングラスに、ブランド物のバッグを持ったセレブなお客。

こんなお客は珍しい。

(いいわ~!)

この店の顔とも言うべき、ベテラン店員のあゆ美が一番に目をつけた。

(絶対、高いものを買わせてみせるわ。)

いつも以上に気合いを入れ、ゆっくりと近づいていく。

「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」

「うーん。そうねぇ…」

「あの、これなんかお客様にぴったりだと思いますが…」

「そうかしら?
なんか私の趣味に合わないわ。」

(なんて嫌味な客!でもここは我慢よ。
前にも客を怒らせて店長に怒鳴られたんだから…

そうだ!あれがあったわ。)

「お客様、これはいかがですか?
ヴィンテージもののジーンズです。

足が長いお客様にはピッタリだと思いますよ。」


「そんなボロボロのジーンズいらないわよ。」

その瞬間、あゆ美の顔色がいっぺんに変わった。

(頭きたっ!もう我慢できない。)

気相の荒いあゆ美は一度怒ると、おさまりがつかない。

「ちょっと、あなた!
どこのセレブか知らないけど、気に入らないのならさっさと出て行ってよ。」

他の店員が慌てて止めに入る。

後になって必ず後悔する。

(やってしまった…)

あゆ美の性格上、一度口にした事は撤回できない。

「気に入ったわ。そのジーンズいただくわ。」

「え?こ、これを?」

あゆ美は呆気に取られて言葉を失った。