いつの間にか、佐奈よりまりの方が買い物に熱中していた。

まりを待つ間、佐奈は本屋さんで時間をつぶす事にした。

ふと隣りにランドセルを背負った小学校3年生ぐらいの男の子が同じように立っている。

黒ブチのメガネにベレー帽をかぶっていかにも秀才。

佐奈はなぜかその子に興味がわいたのか、読んでいる本を横から覗きこんだ。

(ゲッ!まだ子供やのに漢字いっぱい載ってる難しい本読んでるわ。)

そのリアクションに気づいた少年が佐奈の顔を見た。

「僕に何か用ですか?おばさん。」

(お、おばさん?!)

生まれて初めておばさん呼ばわりされた佐奈。

「ちょ、ちょっと、おばさんはないやろ?!
うち、まだ20才やで!」

「それは失礼しました。でも覗きはよくないですよ。」

(ガキのくせに生意気な口きくな~!)

なかなか腹の虫が治まらないが、ここは大人として一歩引く事にした。

佐奈は何を思ったのか、その少年にこう尋ねた。

「君、将来の夢は?」

「夢、ですか?」

少し間をおいてこう答えた。

「将来の夢は弁護士になる事です。」

「弁護士?!」

子供ながらその夢を実現しそうな風格は持っている。

「もうよろしいですか?そろそろ塾にいかないと…」

「ああ、塾の時間つぶしてたん?」

「はい。お姉さんは大阪の方ですか?」

「わかる?バリバリの関西人やで。」

「では、失礼します。」

(全然、話が続けへんな。)

その少年が佐奈の前を通りすぎようとした時、

「ちょっと、君!」

「まだ何か?」

「たこ焼き食べた事ある?」

少年は首をひねってそのまま歩きだした。

(秀才はあかんわ。たこ焼きも知らんやから……)

その後ろ姿を見て佐奈は誰かの面影を重ねていた。