佐奈は新幹線の中でずっと目を閉じていた。

今まであった事を振り返りながら……

いつの間にかウトウトしていると、

「佐奈、着いたぞ。」

健二に声をかけられ、慌てて席を立った。

(ここが東京か…)

思っていたより大阪と何も変わらない風景。

健二は芸能人らしくサングラスに帽子をかぶり辺りを気にしながら歩いている。

ファンにばれないよう急ぎ足で出口を先に出た。

健二と佐奈、その他のスタッフは駅に迎えに来ていたハイヤーに急いで乗り込んだ。

佐奈は一人、落ち着かない様子で辺りをキョロキョロと見渡しながら後に続いた。

そんな不安げな佐奈の手を健二はギュッと握りしめて優しくささやいた。

「佐奈、大丈夫や。
俺も最初はすごく不安やったけど、お前には俺がついてる。なっ!」

(健二…そうや、うちは一人じゃない。
そばに健二がいてくれる。)

健二の優しさが佐奈の不安を和らげてくれていた。

車がとあるマンションの前で停車し、健二は佐奈と付き人を連れて降りた。

(この人?)

「ああ、この子は俺の付き人で吉川まりって言うねん。」

「はじめまして、まりです。」

「あぁ、どうも。」

「とりあえず上がろうか。」

佐奈はちゃんと説明をされないまま、マンションの部屋へと案内された。

「佐奈、今日からここがお前の住む家や。」

「あの、健二は?」

「俺?一応、最初は別々にな。
人の目もあるし…

隣の部屋にまりが住んでるから困った事があったらなんでも聞いたらいいよ。」

(…仕方ないか。健二はスターやもん。

いきなり同棲なんてバレたら大変やしな。)

佐奈は自分にそう言い聞かせた。

「佐奈、俺は今からすぐ仕事やから今日はここでゆっくりしといて。
疲れたやろ?」

「ううん。
健二もしんどいのに大変やね。」

「俺は大丈夫。タフやからな!」

健二は佐奈の頭をポンとたたくとすぐに出かけて行った。