翌日、【たこ萬】に1本の電話が入った。

「はい、【たこ萬】です。」

「あ、もしもし、おっちゃん?佐奈です。」

「おう、佐奈か、どうしたんや?」


佐奈は少しためらいながら、

「…実は、うち…
やっぱり、健二と一緒に東京行こうと思って。」

「えっ!?」

「ホンマにごめん。
でも…今度は後悔したくないねん。」

佐奈からその言葉を聞いた時、おじさんは2年前の事を思い起こした。

健二を見送った時の佐奈の姿を……

「佐奈、本気か?
ホンマに行くんか?」

「うん。健二が大阪に来てからこの1週間、すごく悩んだよ。
でも健二と再会してわかった。

やっぱり、うちは健二の事が好きやねん。」

「…そうか。
佐奈が決めたんやったら俺は止めへん。」

「ホンマにごめん!
急に店を辞める事になって、おっちゃんにも迷惑かけるし…」


「店の事は気にせんでええ。
佐奈は自分の事だけ考えろ。
お前の人生やからな。

今度こそ幸せになれよ!」

おじさんは佐奈の幸せを誰より望んでいた。

(悩んで、悩みぬいて決めたんやろ?
なぁ、佐奈…。)

(おっちゃん、うちのワガママ聞いてくれて、ホンマにありがとう。)

佐奈はこぼれそうな涙を必死でこらえながら心の中で感謝の言葉を繰り返していた。