ある日、塾での事。

授業前に満男が僕にこう言った。

「なあ、勉。あの後ろの席に座ってる髪の長い子おるやろ。」

「え?」

気付かれないようにチラっと振り返った。


満男の言う髪の長い女の子。

(あっ、あの子かな?)

「小林 真理亜って言うねん。な!
めちゃかわいいやろ。」

なぜか満男が自慢している。

言われてみれば確かにきれいな子だ。

性格はおとなしく、いかにもお嬢様と言った感じでこの塾では[マドンナ]的存在。

「実はな…
 俺、前から真理亜さんの事、好きやねん。」

照れた顔がやけにカワイらしい。

「そやけど、しょせん高嶺の花や。
俺なんか全然相手されてないし……

最近の真理亜さん、勉の方をチラチラ見てばっかりや。
もしかしてお前に気あるん違うかな~。」

満男は少しくやしそうな顔を見せた。

「えっ?!そ、そんな事ないよ。」

そんな事、絶対あり得ない。

でもそう言われたら変に意識をしてしまう。

(小林真理亜さん…か。)

塾のマドンナ…真理亜。

その見た目とはかけ離れた本性を知る者は誰もいない。