「ほんで、辛い事って?
何があったん。」

「実は、家で色々あって……」

僕はここへ来る前、父と喧嘩した事を佐奈に話した。

「そうなんや。」

「僕、初めてなんです。
父に反抗したのは…

あんなひどい事を言ってしまって、これからどうしていいか……」

「そうやな~。」

佐奈は自分の事のように親身になって僕の話を聞いてくれた。

「うちには、両親がいてないからちょっとうらやましい気もするけど…」

「え?!佐奈さんの両親は?」

「うちが小さい頃にお父ちゃんは他に女作って出て行ったっきり、どこへ行ったんか、わからんし…

お母ちゃんもそれから苦労してな…
結局、4年前に病気で死んでしまった。」

佐奈があまりにも淡々と話すのでそれが、大した事じゃないように聞こえてしまう。

(…苦労したんだ。)

僕はつくづく自分が情けない。

佐奈に比べたら自分なんて、ただの親子喧嘩でこんなに大袈裟に騒いで…

「ごめんなさい。辛い事を聞いてしまって…」

「いいよ。もう昔の事やもん。
うち、別に自分が不幸やなんて思ってないし…」

(佐奈さんは、本当に強い人だ。)

「うちにはおっちゃんも、いてるしな!」

だから、おじさんはいつも佐奈の事、本当の娘のように心配していたんだ。