翌日の夕方。

大苅家では母がキッチンで忙しそうに走り回っていた。

「幸子さん、今日は幸彦が久し振りに早く帰るんだから夕食の支度を急いでちょうだい。」

「はい、お義母さん。」

相変わらず、母とおばあちゃんは微妙な関係。

おばあちゃんにとって父はいつまでも可愛い息子のまま。

そして母はその息子を奪った憎たらしい嫁。

僕が生まれた今でもその関係は修復されていない。


♪プルル…プルルル…♪


「あら、こんな時間に電話なんて珍しいわね。」

「あ、お義母さん、私が出ます。」

母は濡れた手をエプロンで拭い、慌てて受話器を取った。」

「はい、大苅でございます。」

「もしもし、大苅勉君のお宅ですか?
私、塾の講師をしている、岡田と申しますが…」

「あぁ、先生ですか?
勉がいつもお世話になっております。」

「いえ、こちらこそ。」

わざわざ塾の先生から電話が来るなんて今までになかった事だ。

母はそれだけに不安を抱いた。

「実は、大変言いにくい事なんですが…」

「はい、…はい、…えっ?!」

一体、何を?

岡田先生は、母に何を言ったのか…?