美紀はふと、ある事を思い出した。

「あ、そう言えば…
この前、息子さんが病院に来ていたわ。」

「息子が?!」

僕の名前を聞いた途端、父の表情が変わった。

「夜に急患を連れて来たの。若い女の子なんだけど…」

「誰だ?勉とどういう関係なんだ?!」

父の厳しい表情に美紀は急に態度を改め、

「わ、私もよくわからないんですど…」

(若い女?信じられない、あの勉が…?)

「彼女、レイプされたみたいなんです。」

「レイプ?!」

(勉が…なぜ?そこに。)

「あの時、息子さん以外にもう一人、先生と同じぐらいの男性が付き添いで来ていました。」

(全く、どうなっているんだ。)

父は自分のいない間にこんな事が起きているとは、にも思わなかったのだろう。

(そう言えば、この前幸子が何か言っていたな。
最近帰りが遅いとか、悩んでいる、とか…)

そんな事も知らず、自分はこうやって若い女と会っている。

「…あの、先生?」

「帰る。」

父は即座に帰り支度を済ませると無言で部屋を出て行った。

置いてけぼりにされた美紀。

(やっぱり子供にはかなわないのかな…)

そんな事、最初からわかっていた。

(私も先生の子を産みたい…)

この時、美紀の中で僕に対する嫉妬心が静かに燃え上がっていた。