ざわめく会社の廊下で、いつもあなたとすれちがう。目で合図をする私たちの関係は、私と彼以外だれも知らない。あなたの目を見たあと私はいつも、あなたの左手の薬指を見てしまう。光るプラチナの結婚指輪…同じ指輪が私の指にはめられていない事実を、すれちがうたび思いしらされる…。今日は彼が私のマンションに来る予定の日。私は、少しの間悲しみに触れたあと、私の心の中は彼と過ごせる喜びに変わってしまう…。私はどうしてこんなに簡単なんだろう−そんな事を思いながら、両手に抱えた書類を力強く抱きしめた。