ガタンッ
「話途中で終わったね。そしたらね、父さん帰ってきたよ。玄関まで這いつくばって行って父さんに『おかえりなさい』って笑ったら、父さんすごい顔してリビングに入って行ったの。追いかけたら、いわれたの『人殺し』って。事実だから何も言わないで父さんを見たの。そしたらね、いきなりおびえてリビングの隅に走り寄ったの。母さんねなんかきれいな色してたの。びっくりだよ」
カタッカタッ。指が肘掛を叩く音が響く。明香に戻ったみたいだ。優しく笑うものの瞳はまたあらゆる方向に動いて定まらない。
(戻った・・・。朱鳥くんよりはやりやすいな。)
前野はため息をついて報告書のはじに、
『容疑者多重人格の確立あり。』
と角ばった字で走り書いた。ボールペンをデスクに置くと目の前の少女を見た。最初となんら変わらなく目を合わせない。
「でね、父さんが私を怖がるから。私ね・・・。」