頭はいいけど、頭がバカなおこぼれちゃん

「前野さん!」
屋上で煙草をふかしていると後ろから元気な滝の声が呼び掛けた。前野はケータイ灰皿に煙草を押しつけると滝の方を向いた。滝のうしろにネクタイを緩めた奈島と吉田。
「なんだ。」
「長石容疑者のその後のことです。」
「・・・あぁ・・・・・・。」
忘れかけるところだった。先々日の、あの取り調べを。あの時、少女はそのまま精神病棟へと連れて行かれたのだった。滝は、一回ちらっと前野を見ると資料に目線を戻す。滝が話す内容を前野は聞き流すように耳を傾けた。

 容疑者・長石 明香(14)は多重人格の障害者だった。小さい頃言われたことにより手足が動けなくなったことで、一人で暮らせなくなったしまった。明香はそれがイヤでイヤでしょうがなかった。そして考えたのだ。でた結果が、『足を動かすなと言われたのだから手を動かせる私がいるはず。手を動かすなと言われたのだから足を動かせる私がいるはず。動けない私は私でいい。』そして、少女の小さな体に二人の人格が生まれた。二人の人格のうち明香のほうは、重度の精神障害者とみなされた。明香は、母親(長石 永遠子)による虐待をうけており、親への恐怖が大きかった。そのため、精神が安定しなくなってしまった。それとは反対に朱鳥のほうは親への嫌悪が大きかった。そのため、父親(長石 聖一)のように細身の男性を嫌い、自分に優しくする『がたい』のいい人としか話さなくなり、父親に負けたくなという思いにより強気な挑発的な話し方なったのだ。
 そして、その間にいるあすかは、人格を作りあげた張本人。明香には名前の漢字を、朱鳥には、自分の世界(多重人格の自覚)をあげたのだった。あすかは冷静に物事をとらえることのできるできた少女だ。そのため、母親の浮気もすべて受け止めたのだった。